COLUMN 「建設業の労働災害について」

労働災害イメージ
建設業は労働災害の発生が極めて多い業種であり、その防止対策は喫緊の課題です。ここでは建設業が抱える現況と問題点、労働災害の発生原因とその対策を考えてみたいと思います。

1.現在の状況と問題点

足元の日本の労働災害による死傷者数は過去20年間で最大とじわり増えていますが、世界でみると労働者10万人あたりの死亡者発生率は日本が1.54人と4人を超える韓国や米国などに比べ低水準です。製造現場等で「ヒヤリハット」の事例を共有しリスク発生の芽をつむ取り組みが先進的に進んできたためだと考えられています。しかし、建設業に注目して見てみると5.87人と全産業の平均値の3.8倍であり憂慮すべき事態です。

労働災害への対応は、近年企業による人権の取り組みの一環として捉えられるようになり一段と重要性が増しています。世界の機関投資家が参加する格付け「企業人権ベンチマーク」では自社内だけでなくサプライヤー(仕入先)へ労働安全衛生の取り組みを求めれば高評価が得られます。 参照:『日本経済新聞コラム』(2023.11.22)

そのような状況の中、令和4年の建設業の死亡者数は281名(全体の36.3%)と第1位であり、死傷者数も14,539名(全体の11.0%)です。全産業に占める建設業の労働就業人数の割合は7.1%であることを考えると、いかに多いかお分かりになると思います。

建設業は高所や重機等が出入りする危険な環境で作業することが多いため、死亡災害発生率がほかの産業と比べて高くなっています。中でも三大災害による事故が約半数を占めているため、細心の注意を払い安全管理を徹底して作業をする必要があります。

建設業における三大災害とは、以下の3つの事故に分けられます。
(1) 建設機械の事故、(2)墜落・転落の事故、(3)崩壊・倒壊の事故
重大災害(不休も含む一時に3人以上の労働者が業務上死傷又はり病した災害)についても厚生労働省が詳細な原因調査等を行い、他の災害とは別に統計・分析して重大災害統計を作成しています。1968年の480件をピークに減少傾向ですが、高止まりしています。

業種別では、やはり建設業が最も多く、次いで製造業となります。
常に安全対策が必要とされる建設現場は、安全対策がとても難しいといわれています。

2.労働災害の発生原因

ここで建設業は何故、労働災害事故が多いのか、その原因にはどのようなものがあるのかを考えてみたいと思います。建設業における労働災害発生の原因となるものはいくつかありますが、主なものを挙げると下記のようになります。

  • (1)受注生産であり、毎回、現場や作業が異なる。(自ら設定することができない)
  • (2)基本的に毎日、作業が異なる。(工事の進捗に伴って、工種も変化する)
  • (3)屋外での作業が主体であり、降雨や強風などの自然環境の影響を受けやすい。
  • (4)高所、隧道やトンネルの内部、地下など危険な箇所・環境下での作業が多い。
  • (5)移動式クレーン、建設大型機械など危険な機械を使用する作業が多い。
  • (6)重層の請負関係(下請負)のもとで作業が行われ、指示が行き届かない。
  • (7)職種が多様であり、作業員の出入り(入場・退場)が激しい。
  • (8)発注時における工期設定が厳しい。(または無理な工期設定でも受注してしまう)

さらに建設現場は常に働く環境が常に変化しており、それに伴って注意を向ける部分も常に多様化し変化するため、固定化された安全対策ができないということが考えられます。

3.労働災害の発生防止対策

建設業における労働災害発生防止対策としては下記のことが考えられます。

  • (1) RKY(リスクアセスメントを取り入れたKY)活動の活性化  ただし、①毎日見ている現場ですので、原風景となりハザード(危険源)の見落としが発生しやすいこと、②同じ作業が続くと、RKYの活動もマンネリ化しやすいこと、③発表する人の固定化で全員参加型でなくなってしまうことには注意が必要です。
  • (2) リスクに対する姿勢の転換 本来の「安全」を確保するためには、個人の 危険感受性や気づきに期待するのでなく、道筋 を決め、順序立てて危なさを調べる方法に切り 替えていくことが必要です。主観的に「見つける」姿勢から、客観的に「調べる」姿勢に切り 替えるということです。
    危なさをひととおり順序立てて調べることが必要です。
  • (3) 経営者の安全に対する考え方の転換 安全に必要な費用を「コスト」ではなく「投資」と考えるべきだと考えます。
  • (4) 再発防止対策が「三大無策」にならないようにする 再発発防止対策が、「周知徹底」「教育訓練」「管理強化」の失敗学でいう「三大無策」に頼ってしまい精神論的解決にならないように注意することも必要だと思います。
  • (5) ヒューマンエラーの低減 ①エラーの起きる環境の改善、②業務を分かりやすくする、③個人の能力を向上させる、④リスクリテラシーを向上させる、などの対策が有効です。
  • (6)ヒヤリハットの活用 ヒヤリハットは、不安全行動や不安全状態のある状況のなかで事故を起こしそうに なったが実際には事故に至らなかった事象と位置づけたうえで、 ヒヤリハットが事故や災害に至らなかった理由、事故や災害を回避できた能力、その能力を育成するのに役立った日頃の活動、さらにはストレスなど職場環境がどのような影響を与えているかを検討することが大切です。ヒヤリハットは、「災害になる前の脱出事例」であり「成功事例」でもあると考えることができます。参照:『建災防方式・新ヒヤリハット』

安全の確保には常に当事者意識を持ち、法令遵守を超える積極的な姿勢が必要だと思います。
労働安全コンサルタントとして、建設業に限らず色々な産業の労働災害発生を少しでも低減するために微力でも貢献できるように自己研鑽を継続していこうと考えています。