COLUMN 新年度を迎える時期に知っておきたい
「リスク」と「失敗」の付き合い方

新年度イメージ

年度替わりの時期として卒業式や送別会が行われ、入社式や配置転換等で、別れと新たな出会いの交差する時期を迎えます。寒さ厳しい冬を超え、柔らかな日差しが眩しい春を迎え、企業等では新年度計画に向け心機一転といったところではないでしょうか。

コロナウイルスが蔓延してから3年ほど経過しました。ウイズコロナとしての環境変化に即した新たなビジネスの立ち上がりや、既存ビジネスで景気回復の機運が見受けられます。

安全衛生に目を向けますと、コロナ禍で一旦職場を離れる従業員が多かった飲食店では、景気回復に伴う人手不足で、開店時間を短縮し来客数を制限し、ビジネスチャンスを逸しているケースも散見されます。

一方では、新たな従業員を迎えても早計な現場配属が、業務に未熟で精通していない要因から、包丁などでの切創や熱湯での火傷等の労働災害が数多く発生しています。この傾向は飲食店に限ったことではありません。今回第一回目のコラムは、この新年度を迎える時期に知っておきたい「リスク」と「失敗」の付き合い方についてお知らせします。

リスクについて

1点目は「リスク」です。この時期は、多くの「新しい変化」が私達を待ち受けております。変化はリスクの生みの親であり、またそのリスクは新しく機会側に振れるビジネスチャンスと脅威側に振れる場合とがあり、変化によるインパクトのバラツキと捉えてよいでしょう。企業経営では敢えて脅威となるリスクを含むことを承知で機会に臨みリターンを得ます。逆にリスクを回避してばかりではリターンを得ることは出来ません。リスクマネジメントが企業経営において重要な所以ですね。皆さんの職場でも重要な意思決定される場面が多いのも比較的この時期ではないでしょうか。特にコロナ禍からウイズコロナへの移行期と、新年度が重なるこの時期に環境変化の波が押し寄せます。

失敗について

2点目は「失敗」です。失敗は成功の母と言われます。人類は失敗を重ねて試行錯誤しながら進化してきました。「失敗無くして成功なし」です。皆さんの中でも新しい職場に配属される方がいらっしゃると思います。仮に配属先の組織文化や経営者が、失敗やミスを許容しない状態を考えてみてください。おそらく貴重な失敗やミスが報告されず、また社内共有できず、進化のプロセスは思考停止されてしまうでしょう。何でも報告し合える組織、そのためには失敗に対する前向きな姿勢に改めることが肝要です。米国第32代大統領のエレノア・ルーズベルトは言っています。「人の失敗から学びましょう。自分では全部経験するには人生は短すぎます」。

また、自分自身の失敗を認めないがために、報告し共有できないもう一つの要素が「認知的不協和」です。認知的不協和は、人が自分の信念と相反する事実を突きつけられると、その矛盾によって生じる不快感やストレスによって、事実の見方を変えて都合よく解釈してしまう心理的特性です。必死になって自己正当化し、失敗から学ぶのではなく事実を捻じ曲げてしまい自分で自分を欺くプロセスなのです。しかしながらやっかいなことに認知的不協和に陥っていることに滅多に気付けないのです。海の向こうでは悲惨な戦争が続いていますが、この認知的不協和も影響しているのではないでしょうか。
早く平和が戻ることをお祈りいたします。

自主的安全活動の重要性

前段では、主に企業経営の視点でリスクと失敗を述べてきましたが、労働安全の視点に振り返ってみましょう。人はミスをして、よく忘れる生き物です。心理学的には欠陥だらけの生き物ともいわれています。ヒューマンエラーは必ずあるのですから、不安全状態の改善と不安全行動の回避を行うために、事前に不安全状態の危険の芽を摘み取るリスクアセスメントと、行動の際に不安全な行動を指差し呼称を含めた危険予知活動で回避することが最も効果が高いと考えられています。
数多くの死亡災害や重大災害に直面した先人が、その教訓から考えてきたこれらの自主的安全活動は、まさしく失敗から学んできた価値ある活動です。ヒヤリとした場面に遭遇し脅威となるリスクを報告し合い、災害防止対策に生かすヒヤリハット報告制度もまさにこの考え方です。

安全にとって欠かせないこと

最近では新規事業等での究極の失敗型アプローチとして、「事前検死」という手法が注目されています。プロジェクトが終わった後でなく、あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定して、なぜうまくいかなかったのか、チームで事前に検証することで、通常なら埋もれている失敗理由が浮き彫りになります。この対策を事前に生かすことでプロジェクトを成功に導くのです。言わばリスクを事前に摘み取り成果を得る活動です。
環境変化のスピードと複雑な大きなうねりのVUCAの時代では、ビジネスチャンスの小さな芽を見つけて育て、脅威のリスクの芽を早いうちに摘み取る活動を、変化が続く限り継続する姿勢が大切なのです。

まとめ

最後になりますが、新年度を迎えて、新たな気持ちで職場に向かわれる皆さんに一言申し上げます。変化に伴うリスクが多いこの時期だからこそ、前向きに失敗を学習のチャンスだと捉える組織文化を根付かせること、これこそが安全文化を醸成するための第一歩になるのです。