COLUMN 健康に生きて、健康のうちに死す

体操をしている老夫婦

健康に生きて、健康のうちに死す

皆さま、こんにちわ。このコラムも最終話となりました。そして当該コラムの執筆者の方々が所属する、(一社)日本労働安全衛生コンサルタント会東京支部の多数のコンサルタントが講演する「猛暑・熱中症展/労働安全衛生展/振動対策展」開催まで約一か月となりました。お申し込みは済ませていただけましたでしょうか。

さて、最終話は、身体的な健康にかかわるコラムになります。2018年5月に気候変動適応法が施行され、5年ごとの見直し法令に従い2030年までの熱中症対策の目標値が国から表明されました。‘平均で千人超の死者数を2030年までに半減させる目標を設定。政府は近く計画を閣議決定し、今夏から対策を強化する方針’とのことです。岸田総理大臣は熱中症の死者は8割以上が65歳以上の高齢者であることを自ら語られました。高齢者にとりエアコン使用は贅沢であり、使用することを極力控える意識が高いこと、また高齢になると寒暖差が感じにくくなり水分摂取が進まないことも一因です。一方で職場の熱中症対策はデジタル化も急速に進み、WBGT(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)測定とその結果による作業現場対策実施、またそれ以外に従業者のバイタルサイン(体温・脈拍・血圧・発汗状態等)を随時捉え客観的に必要な対策が取れるようになり、さらに体からの放熱を促す装着型の機器の軽量化や効率化が行われており、目をみはるものがあります。今回の「猛暑・熱中症展」でも、数多くの熱中症対策機器やバイタル監視システム・作業衣等の展示がありますので、是非見に来られてください。また、作業管理では、熱順応を行うことや、その日のWBGTに合わせた作業時間・休憩時間の設定も当然に行われている様子です。しかし、これだけ周辺機器等の整備が整っていても、まだ熱中症は起こります。それはなぜか。偶発的事故なのでしょうか。それとも、予算がない、わかっていても行動を起こすことができない、またはもっと上流の理由:情報を得る機会がないからでしょうか。

同じ疑問を職場の労働安全衛生法による定期健康診断結果にも抱きます。健康診断は就労者の90%以上の方が受診されています。しかしながら、健診結果有所見率は2008年度を境に50%を超え、毎年度微増し続けています(2021年度は58.7%。厚生労働省調べ)。40歳以上の方が受診する、皆さまが加入している健康保険の保険者が実施する特定健康診査(会社勤務の方は労働安全衛生法による健診と同時実施のスタイルが多いです)も実施されていますが、こういった健康診断を受ける意味はどこにあるのでしょう。ただ、健康状態を国が調査しているだけなのでしょうか。

その意味を理解するため、健康診断はだれのために受けるのか考えてみましょう。皆さまの雇い主は従業者への安全・健康配慮義務がありますが、そんな冷たい日本の風土ではないはずです。元気で働いてくれているか、働く際に危険はないか、予め洗い出しておき対策をとることが目的でしょう。従業者にすれば、当然自身のため、そして家族のためかもしれません。でもよく考えてみてください。毎年受診するだけで何か改善すべきことを放っておいてはいないでしょうか。それは事業主や産業医等にも問われることではありますが、まず自身に問うべきことでしょう。熱中症対策の上でも、他の事故案件にもあることですが、根本的に事故が無くならない要因は、「このくらいならば大丈夫」と過信することからくるのではないでしょうか。同じことを、健康診断の結果を見た時に、感じないでしょうか。このくらいならば大丈夫だと考えていないでしょうか。そして、もう一つ、健康診断の結果に問題がない場合でも、誤った考え方をしていないでしょうか。つまり、「健診結果が問題ないから、次年度の健診まで健康は保証された」という考えです。しかし、健診を受けてから結果を手にするまでにすでに2~3週間は経っています。すでにそのデータは、皆さま自身の過去の身体状況の結果なのです。従い、次年度の健診までの健康を、当然保証するはずのものでもありません。結果が良ければ、「この1年よく頑張ったね」、という代物なのです。では、私たちは、どうしていけばよいのでしょうか。

さて、私の身近な知人に、90歳と91歳のいわゆる幸福な女性たちがおられます。二人とも同じような背格好で疎開を経験した東京出身の方です。90歳の方は、1年前に脊柱圧迫骨折を起こし、多少は歩けるようになったものの、それ以上リハビリを希望せず、車椅子生活を余儀なくされ、最終的に介護付き老人ホームに入所しました。もう一方の91歳の女性は、自宅にてゆったりと毎日を送っています。病歴は90歳の方は18歳のころに結核、また91歳の方は大腸がんを60歳時に患っています。ですが91歳の今は健康そのもので,年齢相応またはそれ以上に自身で思うように活動できています。その差は何でしょう。

ヘルスリテラシーという言葉があり‘健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと’という定義がなされています。現在は情報が満ち溢れ、健康につながる情報の取捨選択が難しくなっていますが、人生100年を健康に過ごすためには、この考え方なくしては健康のうちに死すことは不可能でしょう。前述の91歳の女性は、今でも週3回の区の健康体操に通っています。もう50年以上続けているとのことで、コロナ禍でも自宅で簡単な体操をしていたそうです。90歳の女性は食事には多少気を付けてはいたようですが、自身で運動するなど決してしない方です。皆さんは90歳の女性と91歳の女性、どちらになりたいですか?

身近な一例を極端な視点からお伝えしましたが、皆さんの健康は、まず皆さんのものだと強く認識してください。どうかご自身を大切にし、家族を大切にし、職場にも活気を与えてください。歳をとってもやりたいことができるすばらしさを想像し、自身の頭で考え、必要ならば専門家の手を借り、活動を始めてください。最後は健康のうちにこの世とお別れする、そのためにはまず、今、ご自身の健康状態を省みて、治療が必要ならば病院にかかることです。女性は子宮頸がんや乳がん等若年でも発症するがんの検診を自分から若いうちから受診すること、男性も一定年齢になったら自分からがん検診を受診すること、そして皆さん、喫煙はやめていただき、その分大好きな方にプレゼントをしたり、貯金をして大きな買い物をしたり、旅行に出かけたりしませんか。Quality of Death. 死の質を高めて参りましょう。

それでは、熱中症やコロナ感染・麻疹等に気を付けてお過ごしいただき、7月に東京ビックサイトでお会いしましょう!大勢の方のご参加を、皆でお待ちしています。